麻酔科・痛みセンター 講師
朝元 雅明

MAPP-Labという研究グループにて大勢の協力者とともに研究を行っています。
※MAPP: Measurement and Analysis of Perioperative Physiology

東大病院の手術室では多種類の手術を行っており、他で得られない特殊な測定データを収集することが出来ます。これらのデータに対してデータサイエンスのアプローチを援用し、手術を受ける患者さんに何が起きているか、普遍的な事象の理解を通じて医療安全を追求しています。外部研究者とのコミュニケーションも盛んで、海外の学会へ積極的に参加/発表し、工学部の研究者、医療機器メーカーの開発者と議論を行いながら共同研究を行っています。大学院生として学びたい方、話を聞いてみたい方、研究内容に興味がある方はお気軽にご連絡ください。

MAPP-Labの特徴

  • Slackによる心理的安全性の保たれた素早い意見交換
  • dokuwikiを研究日誌として利用した成果の見える化
  • AWS/dockerを利用した大規模分析
  • 月1回の定例ミーティング(ハイブリッド)
  • 年1回以上の海外学会発表
  • 探索的、適応的な方針決定(アジャイル)
  • 他領域とのコミュニケーション

手術室の中から、世界を驚かせに出かけましょう!

心拍変動解析

頭部に短時間電流を流しけいれん発作を引き起こすことで、うつ病を治療するm-ECTを自然実験として利用しました。MemCalc-Makin2から計算された心拍変動解析データを、統計ソフトRを用いて28名分のデータを重ね合わせることでけいれん発作の時に、自律神経(交感神経・副交感神経)活動が時間差を持って変化することを可視化しました。

心拍変動解析はまた、ストレス定量にも用いられます。バイオロギングの研究手法から刺激を受け、麻酔科を回る初期研修医にホルター心電計を装着して、麻酔科研修中の心電図を記録しました。心拍変動解析と心理テストを行う事で、麻酔科で研修する初期研修医のストレス定量を行い、大学院生であった服部貢士先生より学位論文として発表しています。

脳波分析

日本光電のニューロファックスを使い、全身麻酔を受ける患者さんに協力を依頼し麻酔中の21極脳波データを得ました(日本光電との共同研究)。pythonで脳波分析の可視化ツールを作成し、αリズムの前方移動という全身麻酔中の特徴的な脳波変化に着目しさまざまな分析アルゴリズムを試みて成果を得ています。

また、分析アルゴリズム開発の過程で今まで報告されてきたαリズムの自動検出よりも性能の良い方法を発見することが出来ました。これら成果をまとめ、大学院生の東星一先生と論文として発表しました。

Perfusion Indexを利用した局所麻酔の効果検出

酸素飽和度測定装置から計算出来る、Perfusion Indexを利用し脊髄くも膜下麻酔で下肢の血管が拡張し血流が増加することを捉えることに成功しました。ROC分析を行い、Perfusion Indexの上昇率を指標とする事で、脊髄くも膜下麻酔の効果の判定が感度・特異度が高く可能である事を提案しています。本法は2020年11月より東大工学部との共同研究へと発展しました。

心拍出量測定装置の妥当性検討

LiDCOrapidとFloTrac/Vigileoという2種類の心拍出量測定装置について、肺動脈カテーテルからの熱希釈法をベンチマークとしてどれだけ正しいか(互換性、追従性)を検証しました。対象としたのは肝移植手術を受ける重度の肝不全状態で高心拍出量となっている患者さんと、冠動脈バイパス手術を受ける心機能が低下して低心拍出量となっている患者さんで、事前に研究内容を説明し承諾を得ました。この2種類の手術患者さんの協力の元低侵襲な測定を行うことで、低い心拍出量から高い心拍出量まで、広い範囲で心拍出量測定装置の検証が出来ました。本結果は論文として発表され、LiDCOrapidにおけるアルゴリズムのバージョンアップに繋がりました。(大手術を受けるにもかかわらずご協力頂いた患者さんに、この場を借りて深く御礼申し上げたいと思います。)

手術室におけるエアロゾル発生状況の可視化、測定

新型コロナウイルス(2019-nCoV)の感染拡大により、手術麻酔において厳密な感染防御が必要となっています。大学院生の川島征一郎先生と協力し、手術室におけるエアロゾル発生状況の可視化、測定を試みています。